農家の所得向上へ約2兆5000億円の予算確保を要請 自民・森山幹事長ら
要点まとめ
- 自民党の森山裕幹事長らは、農家の所得向上と農業の構造改革を目的に、今後5年間で約2兆5000億円の追加予算を政府に要請した。
- この予算は、従来の農業関連予算とは別枠で確保することを求めている。
- 要請の背景には、農業従事者の減少や高齢化、食料自給率の低下といった日本農業の厳しい現状がある。
- 2025年度から2029年度までを「農業構造転換集中対策期間」と位置付け、農地の大区画化による低コスト生産の推進、スマート農業技術の導入、コメの輸出拡大(2030年までに現在の約7.5倍、35万3000トンを目標)、流通網の強化などが主な施策。
- 2兆5000億円のうち、国費負担は約1兆3000億円を見込む。
具体的な予算配分案には、
- 農地の大規模化(約8000億円)、
- 老朽化した共同利用施設の再編・集約(約9000億円)、
- スマート農業技術・高温耐性品種開発(約7000億円)、
- 輸出産地育成(約2000億円)
などが含まれる。
背景・狙い
- 少子高齢化や担い手不足で生産基盤が弱体化し、農家の所得減少や食料自給率低下が続いているため、持続可能な農業の実現と食料安全保障の強化が急務となっている。
- 2024年改正の「食料・農業・農村基本法」に基づき、2025年度から新たな農政の基本計画が始動し、これに沿った大規模な財政支援が必要とされている。
今後の動き
- 政府は今回の要請内容を踏まえ、2025年度からの予算編成を検討する方針。
- 森山幹事長は「今動かなければ手遅れになる」と危機感を示し、農業改革の必要性を強調している。
- この要請は、農業の生産性向上と農家の所得増、そして日本の食料安全保障の強化を目指すものであり、今後の農政の大きな転換点となる可能性があります。
コメ農家が赤字でもコメを作り続ける理由
三菱総合研究所コラム「コメ農家が赤字でもコメを作り続ける理由」(2023年7月12日)の
日本のコメ農家の現状
- 日本のコメ農家の約95%が赤字経営であり、所得ベースでも半数が赤字という厳しい実態がある。
- それにもかかわらず、多くの農家がコメ作りを続けている。
小規模・分散農地の歴史的背景と課題
- 日本の農地は10a(アール)程度の小規模で、しかも分散して所有・耕作されるケースが多い。
- これは農地解放時に、灌漑の不安定さや局所的な洪水リスクの分散という合理的理由があったためだが、現在では非効率の象徴となっている。
- 1枚あたりの農地が狭く、農地が分散していることが、日本の土地利用型農業の生産性向上の大きな壁となっている。
生産性の限界と価格競争の困難
- 農地の狭さ・分散という構造的問題が解消されない限り、コメの卸売価格を60kgあたり1万円以下に下げることは難しい。
- 為替水準が大きく変動しない限り、カリフォルニア米など海外産米と価格競争するのは非常に困難だとされている。
農家の経営実態と規模の限界
- 農水省の統計によると、15~20ha規模の農家でも平均圃場枚数は71枚、30ha以上では177枚と、1枚あたりの面積は24a、35a程度にとどまる。
- 実際には畦道をなくして2枚の水田をまとめて耕作する例もあるが、それでも効率化には限界がある。
食料安全保障の観点
- 日本の食料自給率はカロリーベースで37%と、先進国の中でも非常に低い。
- 世界的な食料危機や異常気象、輸入制限などが発生した場合、日本の食卓が大きなリスクにさらされる可能性が高い。
米農家が赤字でも作り続ける理由
- 農家にとっては、土地や農業という「生活基盤」を維持すること自体が重要な動機となっている。
- また、農業が地域社会や文化、国土保全など多面的な役割を果たしていることも背景にある。
消費者への提言
- 日本の農業を支えるためには、消費者が国産農産物を選び、地産地消や規格外農産物の購入などを意識することが重要だと呼びかけている。
補足:近年の米不足と社会的影響
- 2024年から2025年にかけて国内米価格が高騰し、購入制限や農家によるデモなど「令和の米騒動」と呼ばれる事態も発生した。
- 背景には気候変動による不作や農家の高齢化、政策的な転作推進、訪日外国人観光客による需要増など複合的な要因がある。
まとめ
日本のコメ農家は構造的な非効率と価格競争力の低さから赤字経営が常態化しているが、食料安全保障や地域社会の維持といった観点からコメ作りを続けている。消費者の行動が日本農業の未来を左右するという認識が、今後ますます重要になる。
なぜ赤字でもコメ農家は生産を続けるのか私には理解できない
コメ農家が赤字でも生産を続ける理由は、単に「非合理的」だからではなく、いくつもの現実的・心理的な背景が複雑に絡み合っているためです。主な理由は以下の通りです。
1. 自家消費分を考えると「買うより作った方が得」な場合が多い
- 米価が高騰している現在、スーパーなどで米を買うよりも、自分で作った方が多少赤字でも支出が少なく済むケースが多いです。例えば、コメ作りで1万円の赤字が出ても、米を買えばもっとお金がかかるため、結果的に「自分で作った方が安い」と考える農家が多いのです。
2. 農業の赤字を税務上「損金算入」できる
- 農業の赤字は確定申告で損金算入できるため、サラリーマンとして納税した所得税の一部が還付される仕組みがあります。これも経済的なメリットの一つです。
3. 兼業農家が多く、農外収入で赤字を補填できる
- 日本のコメ農家の多くは兼業農家です。農業以外の収入でコメ作りの赤字を補い、「自分の食べる分は自分で作りたい」と考える人が多いのです。
4. 先祖伝来の農地・地域コミュニティを守る意識
- 「先祖伝来の農地を守りたい」「地域の目があるので農地を荒らせない」といった心理的・社会的な理由も非常に大きな要素です。田んぼを手放すことは、家族や地域の歴史・誇りを失うことでもあるため、簡単にはやめられません。
5. 水田を維持すること自体が目的になっている
- 水田の維持は、地域の景観や防災、環境保全にもつながります。農家自身が「自分の代で田んぼを終わらせたくない」と強く思っているケースも多いです。
6. コメ作りが最も手間のかからない作物であること
- 機械化が進んだ現在、他の作物に比べてコメは手間がかからず、兼業農家にとっては続けやすい作物です。
つまり、コメ農家が赤字でも生産を続けるのは「損得勘定だけでは割り切れない」現実があるからです。経済的合理性、税制上のメリット、地域社会や家族の歴史、そして自給自足の安心感――こうした複数の要素が重なり合っているため、「なぜやめないのか」と単純に疑問に思えることも、実は農家にとっては自然な選択となっているのです。