2010年代初頭 スマホ・SNS・過保護が若者を精神的に不安定にした

主な主張と内容

精神疾患の急増の時期と要因

  • 2010年代初頭、思春期の若者のうつ病、不安障害、自傷行為、自殺率が急激に上昇しました。
  • この現象は、スマートフォンとソーシャルメディアの普及時期と一致しており、30歳以上の世代にはほとんど見られませんでした。
  • 経済危機や政治状況、気候変動など他の要因では説明できず、同様の傾向は他の先進国でも見られます。

過保護な育児と「遊びの喪失」

  • ハイトは、子どもは「アンチフラジャイル(Antifragile)」であり、困難やリスクに直面することで成長すると主張します。
  • しかし、1980年代以降、親や教育者による過度な安全志向(「セーフティズム」)や都市設計の変化により、子どもたちの自由な遊びや自立体験が減少しました。
  • その結果、子どもたちは屋外や友人との直接的な交流の機会を失い、代わりに室内でデバイスを使う時間が増加しました。

「電話ベースの子ども時代」の害悪

  • スマホとソーシャルメディアによる「電話ベースの子ども時代」には、以下の4つの根本的な害があると指摘します。
    • 社会的剥奪(友人との直接交流の減少)
    • 睡眠不足
    • 注意力の断片化
    • 依存症
  • 特にソーシャルメディアは少女に対してより大きな悪影響を及ぼし、比較や完璧主義、孤独感、社会的感染(模倣的な行動の拡大)を助長します。
  • 男子は現実世界からバーチャル世界への逃避傾向が強まり、社会的な撤退や孤立が深刻化しています。

精神的・社会的発達への影響

  • スマホやSNSの普及により、友人と過ごす時間や深い人間関係の構築が減少し、睡眠時間が短縮され、注意力が散漫になりやすくなっています。
  • また、宗教的・精神的な儀式や自然体験、寛容さや許しといった「人間らしい経験」が失われ、若者の人生満足度が低下していると指摘します。

解決策・提案

ハイトは、現状を打開するために以下の4つの「新しい規範」を提案しています。

  • スマートフォンの所持を高校生まで遅らせる
  • ソーシャルメディアの利用開始を16歳以降にする
  • 学校を「携帯電話禁止」にする
  • 子どもたちに自由な遊びと自立の機会を増やす

また、親、学校、政府、テック企業が協力し、より健全で人間らしい子ども時代を取り戻すことの重要性を訴えています。

評価・反響

  • 本書は『ニューヨーク・タイムズ』ベストセラー1位となり、アメリカや他国でも大きな反響を呼びました。
  • 保護者や教育関係者、政策立案者にとって必読の書とされ、スマホ時代の子育てや教育のあり方を再考する契機となっています。

著者について

  • ジョナサン・ハイトはニューヨーク大学スターン・スクール・オブ・ビジネスの倫理リーダーシップ教授であり、『The Coddling of the American Mind』などの著作でも知られる社会心理学者です。

まとめ

『The Anxious Generation』は、スマホとSNSの普及、そして過保護な育児によって子ども時代が「再配線」され、若者のメンタルヘルス危機が世界的に拡大している現状を、豊富なデータとともに明らかにした一冊です。ハイトは、子どもたちに「遊び」と「自立」の機会を取り戻し、スマホ利用に関する社会的な規範を再構築することの必要性を強く訴えています。

The Anxious Generation: How the Great Rewiring of Childhood Is Causing an Epidemic of Mental Illness
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